It's "C" time!!

ちふむ めしはしかやが気ままにつぶやきます。

涼宮ハルヒ『の本』の消失

 これは中学1年生の時の話だ。当時、俺は『涼宮ハルヒ』シリーズを読んでいた。きっかけは、学校内で『涼宮ハルヒの憂鬱』が読書のオススメ本として紹介された事だった。偶然にも、部活見学の際に先輩が涼宮ハルヒの本を持っていたので、読んでみたら想像以上に面白かった。そこで、自分で買って読むことにした。

 しかし悲しいかな、うちの学校では『ラノベを読む奴は(根暗そうな)オタク』みたいな偏見に近いイメージはまだ残っていた。学校でオススメ本として紹介されていたからか先生方に嫌な顔をされる事はなかったのだが、クラス内では白い目で見られてしまった。自分で選んで自分の好みで読んでた本だから、学校内では恥ずかしがらずに堂々としていたが、内心は正直辛かった。結構きつかったぞ。先生方にいろいろ言われるなら内心「こんな面白い本を評価していないなんて分かってないな」とか毒吐けるけど、クラスメートからの評価が低いのは今後の学校生活に響いてくるからな。いや、先生方の評価が低いのも学校生活に響くけど。もっというと、あの時俺は典型的なオタクだと思ってたけど。とにかく、マジで凹みそうだった。

 そんなある日の放課後、俺が教室から出ようとした時、一人の男子生徒がやって来た。彼は俺を見るなり、笑顔でこう言った。

 「君、面白い本を持っているね。」

 彼は俺の知らない人だったが、学校内での知名度がなぜか小島よしお並みに高かった俺にとっては『俺はあの人の顔も名前も知らないけど、あの人は俺の名前と顔を知っている』というのは決して珍しい事ではなかった。『俺が涼宮ハルヒの本を読んでいる』という事も学校中に知れ渡っていたので、おそらく俺の知り合いか誰かから話は聞いたのだろう。彼は続けてこう言った。

 「前々からその本読みたいと思っていたんだ。貸してくれない?」

 一瞬、迷った。顔も名前も知らない人に貸すのか。しかし、学校内で浮いていた俺にとって、『涼宮ハルヒ』を高く評価してくれる人が現れたのはとても嬉しかった。しかも、彼はその本を『読みたい』と言っているではないか。俺に天使が舞い降りた!男だけど。俺、こういうのには弱いんだよなぁ…。結局、貸すことにした。

 奇妙なのはここからである。貸した本が戻ってこない。俺から本を『借りた』んだからいずれは俺に『返す』んだろうと思っていたが、いつまで経っても戻ってこない。しかし、困った事に俺は名前を聞かなかったので、誰が俺の本を借りたのかが分からない。自業自得だけど。覚えているのは借りた人が男子生徒である事と、その顔だけである。とりあえずクラスメートに「友達で涼宮ハルヒの本借りた奴いない?」と聞いて回った。しかし、手がかりはなし。休み時間に他クラスに行き、顔を探したが見つからない。「借りパクされたんじゃないの?」と友達に言われたので、あえてあっさりそれを認めて借りパクの話を広めて、誰かこっそり「あいつから借りパクしてやったぜwww」みたいな話が出るのも期待したが、それも空振り。とにかく、何の音沙汰もないのだ。あの男子生徒は、俺から『涼宮ハルヒ』の本を借りた後、俺の前から姿を消してしまったのだ。結局、本は戻ってくることがないまま時が過ぎ、俺は中学を卒業した。

 あの男子生徒は何者だったんだろう。いろいろ考えた。同学年でも影の薄い生徒説、1つ上か2つ上の先輩説、他校の生徒がうちの学校の制服を借りていた説、現実的に考えられるのはこれらだが、『涼宮ハルヒ』シリーズだからいろいろな説を連想した。

 

対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース(TFEI端末)説

・未来人(未来から来た調査員)説

・『機関』所属の超能力者説

異世界人説

・並行世界の住人説

 

 目的は何だったのだろうか。単に返すのをずっと忘れていたのかもしれない。あるいは、最初から借りパクするつもりだったのかもしれない。あるいは、俺の持っていた『涼宮ハルヒ』の本が異世界や並行世界、未来等で重要な役割を果たすため、それを手に入れる為にうちの学校の生徒に扮して俺に接近したのかもしれない。いずれにしろ、真相を知る可能性はほとんどないのだろう。こうして、涼宮ハルヒ『の本』は消失してしまったのだった。